M1グランプリ2001 漫才分析
お久しぶりです。
2月は4記事の投稿と、三日坊主感が拭えない様子です。
ただこの期間ぼーっとしていた訳ではなく、一つ企画を思いついて試行錯誤しておりました。
タイトルからも分かるように、M1グランプリの漫才分析をしてみようというものです。
いろいろな方がこすりにこすった内容だと思いますが、私なりの分析をしてみます。
台本の書き起こしをして各ボケや流れの分析などはよく行われているので、今回は極力私のセンスや感性を抜いた機械的な分析をしてみます。
◯分析項目
分析項目は以下の通りです。
・審査員の点数
・ネタ時間
・笑いの個数と1分あたりの平均
・笑いのタイミング
・30秒ごとの笑いの個数
・笑いと笑いの間隔の平均時間
それぞれ項目の説明をしていきます。
●審査員の点数
各審査員の点数です。第一回大会のみ、大阪、福岡、札幌の観客審査員がいますが、松本人志曰く
「大阪の客、頭おかしいんちゃいます?」
とのことでしたので、会場の特別審査員の点数のみ収集しました。
●ネタ時間
各ネタの、はじめに声を発した時点から、最後の言葉が終わった時点までをネタ時間としました。M-1は4分がネタ時間のラインとなっているので、この後の分析でもそこを基準にしています。
●笑いの個数と1分あたりの平均
ネタ中に織り込まれた笑いの数と、それをネタ時間で割ったものです。ネタ時間が違うので、コンビ間での比較は平均で行います。
また、「笑い」とは、ボケの個数ではなく、「笑い」を引き起こすものの個数とします。ざっくりの基準は以下の通りです。
・ボケに対するツッコミはセットで1つとする。
・ただし、ツッコミを重ねることで新たな笑いがでた場合は別に1つでカウント。
・笑いを作る意図がみられるものは、会場の受けは関係なくカウント。
ボケとしてのカウントの判断は私の感性が入る唯一の部分です。
なるべく統一の基準に心がけましたが、前半の組は少しバラツキがあるかも。。。
●笑いのタイミング
笑いをいれた、タイミングをそれぞれ以下のように時間として記録しました。
笑い1つにつき、点が1つです。
笑いが多いほど点が多く、短時間に詰め込むと点が密集します。
●30秒ごとの笑いの個数
先程の笑いのタイミングを以下のように30秒ごとで区間分けしました。
ちなみに最後終わる時間がまちまちなので、こちらも分速に変換したものです。
少しややこしいですが、30秒毎の分速、ということになります。
例えば上の1点目は2(笑い/分)なので、実際にはこの30秒は笑いが1つだったということです。
●笑いと笑いの間隔の平均時間
こちらは、各笑いの間隔秒数の平均時間になります。
これが小さいほど、笑いと笑いの間が詰まっていることになります。
しかし、一つ一つの笑いの長さは反映しないので、大ウケの長い笑いと、小ボケの短い笑いを同一に扱ってしまうので注意です。
なので、ボケの強さに関わらず、ボケの始まりと始まりの間隔と考えてください。
●備考
笑いの収集はうまくいっていないことがあります。
また、時間の記録もずれが生じているかもしれません。
amazonプライムから記録しているので、カットされている部分はとれませんでした。
要約:適当な記録として見てね。
◯全体の結果
それでは全体の結果を見ていきましょう。
まずは、点数です。
1stステージの得点は前述したように、特別審査員700点満点+3会場の観客審査員300点満点の計1000点満点で競われます。
その中で上位2組が最終決戦に上がり、優勝は特別審査員の投票で決定します。
おぎやはぎやDonDokoDonなどで、異常に低い点数がついてしまったので、一部で特別審査員の結果と合計結果で順位が異なります。
それでも1位の中川家は揺るぎません。さすが。圧倒的でしたからね。
特筆すべきは、2位争いの部分です。
実は特別審査員のみだと、最終決戦に上がっていたのはハリガネロックではなく、ますだおかだでした。
もし中川家がいなければ、本来特別審査員のみの得点では首位のますだおかだが落ちて、ハリガネロックとアメリカザリガニの2組で最終決戦を行うことになっていました。
これを受けてなのか、これ以降決勝では、視聴者や観客の得票は入ってこなくなりました。2015年以降の敗者復活とGYAO枠くらいですかね。
とはいえ、各審査員の最高得点をみると、中川家とハリガネロックに集中しています。
この点では、ハリガネロックも十分準優勝に相応しいコンビだと伺いしれます。出順の良さは勿論ありますが。。。
次に、ネタ部分の分析結果です。
1stステージの特別審査員の点数順に並べています。
まずネタ時間をみてみると、この大会では約5分間ネタをやったコンビが割と多くいます。
2018年大会では、和牛が5分近いネタをして、一部ネットで批判されていましたが、初期はかなり緩かったようです。
次にネタにおける笑いの数では、中川家の2本目がダントツで高いですね。
しかし、1分あたりでみてみるとますだおかだが一番高い値ですね。
中川家も2本ともほぼ同じ値で、この2組が笑いのスピードは抜けているようです。
30秒毎で見ても、上位の組が高い値を出していますね。
中川家は全体的に6~8(笑い/分)くらいは維持しているようですね。
次に笑いの間隔を見てみますが、その前に笑いのタイミングを、全組分プロットしたものを見てみましょう。
この図で点と点の間が大きいほど、笑いと笑いの間が大きいということになります。
中川家を見てみると、1本目では10秒以上笑いの間隔があいている箇所がほぼありません。
これは他の組と比べても、かなり笑いを詰めてます。
この理由は後述します。
これらを見ると、ネタ中に笑いをうまく継続させるには、
図の点と点の間隔を詰める
か
点を大きくする=1つ1つの笑いの持続時間を高める=大ウケ
の2つが必要だと考えられます。
この笑いの継続力という点でも、初期のM1では、まだ4分の攻略法が確立していなかったことが分かります。
というのも、近年のM-1用のネタと比較すると、この頃のネタの構成は、現在の寄席用のネタに近いのです。
4分のネタ中に、いくつかの設定をいれている組が多くあります。
例えば、フットボールアワーは
つかみ→早口言葉→幼稚園→暴走族→エレベーターガール→館内アナウンス
とネタが展開していきます。
ここで、それぞれの設定前に導入の説明が入りますが、その説明をしている間は笑いがないことが多いのです。
そうすると、せっかく早口言葉の場面で生まれた笑いの波を、一度リセットしてしまうことになります。
寄席のような長い漫才ではそちらの方が疲れずに楽しめるのですが、4分でより笑いをとるとなると話は別です。
このような特性を踏まえて、近年では決勝に来るようなネタはほぼ全て設定は1つです。
初期のM1をみるとあまり面白く感じない人が多いようですが、それは長い歴史の中で、この大会が4分漫才を成熟させていたということでしょう。
◯各コンビの分析・感想
それでは各コンビの分析と感想を手短に、出順通りに行っていきます。
1.中川家
圧倒的でしたね。
よく
第一回大会はよしもとが自分の芸人を優勝をさせる出来レースだった
みたいなことを言う人がいますが、この大会では圧倒的に実力が抜けていました。
先程、中川家は他の組と比較して笑いが詰まっていると言いました。
その理由としては、ボケの剛だけでなく、ツッコミの礼二も笑いをとっているのです。
礼二がツッコミや、設定の導入などでうまく笑いを盛り込むことで笑いを継続させています。
2018年にナイツ・塙が霜降り明星に言ったように、”強弱で言えばふたりとも強い”ということでしょう。
寄席向きの漫才構成ですが、うまく4分に適応するためにスピードアップさせて、持ち前の人間性(いわゆる"ニン”)で優勝をもぎ取りましたね。
第一回が中川家でよかったと思いますね。
初代チャンピオンの次は3代目チャンピオン。
初期のM1は未来のスターばかりで、今見ると豪華ですよね。
今大会のフットボールアワーはいくつかの設定を複合したタイプの漫才でした。
前半ボケを連発してうまく掴んだんですが、中盤の設定切り替えで中だるみした形ですね。
終盤の畳み掛けはこの頃から健在だったようで、4分以降の伸びは全組1位です。
3.チュートリアル
そして第6回チャンピオン。
この頃のチュートリアルは優勝した漫才の形とは、全く違いますね。
が、そのそれぞれがあまりウケには繋がっていない印象でした。
松本人志が最低点の50点をつけており、このことはかなりショックだったようです。
しかし、徳井がうまく役に入っている部分はちらほらウケており、キャラに入り込む能力の高さは垣間見えています。
4.アメリカザリガニ
3位のアメリカザリガニ。
ハンバーガーショップの設定で、1本通していました。
それが功を奏してか、うまく笑いが繋がっていたようです。
笑いの間隔平均は高いですが、後半はうまく詰め込んでいたので、全体通して見るとよくウケていたような印象です。
5.おぎやはぎ
伝説の大阪会場9点を叩き出したおぎやはぎです。
このことは今でも彼らはネタにしていますね。
笑いの数は全組みてもDonDokoDonと並んでかなり低いですし、笑いの間隔も広いです。
しかし、このコンビは明らかに普通に喋っているだけなのに、観客が笑ってしまう空気感があります。
のんびりとした独特の雰囲気はこの頃から健在でした。
6.キングコング
NSC22期のエース。
彼らがいたからあの世代は豊作だったといっても過言ではないかも?
ネタは、合コンの設定1本通しで、動きやテンションで笑いをとるスタイル。
芸人には嫌われそうなタイプですが、こういう風に笑いをとるのも誰にでもできることではないと思います。
笑いの手数は多かったですが、中盤の中だるみがあった印象です。
7.麒麟
今では実力者の麒麟ですが、当時は全国的にはノーマーク。
これ以来、ノーマークのコンビを「麒麟枠」と呼ぶようになりましたね。
個人的にはこのコンビはかなりオーパーツな存在と思っています。
というのも、この大会で見せたネタは、近年流行っている「伏線回収」の魅せ方そのものでした。
前半に弱いボケや不可解なボケを見せておいて、後半にそれに意味づけたり、再登場させる魅せ方が、「伏線回収」です。
2017和牛のウエディングプランナーや、2016スーパーマラドーナのエレベーターなどが伏線回収を用いたネタですね。
この方式を2001年から編み出していたとは恐ろしい。。。
当時松本人志はその斬新性に気づいていたようで、最高得点をつけています。
「僕は今までで一番良かったですね」
の言葉は何度か煽りVTRで使われていましたね。
これはボケの構造云々よりも、当時の視聴者や審査員ですらこのネタを測るものさしを持っていなかったことが敗因ですね。
良く言えば最先端、悪く言えば時代に合っていなかった。
8.ますだおかだ
中川家に次ぐ手数で、さすが次年度チャンピオンといったところでしょうか。
若干つかみが長いですが、葬式の設定1本通しで、うまく笑いが繋がっていました。
個人的には中川家の次におもしろかったので、特別審査員の結果が実際の結果なんだろうという印象です。
ぐっさんがコンビを組んでM1に出ていたことを知っている人は、今かなり減ってきたんではないでしょうか。
ネタ自体は、先述した寄席型の典型といった構成でしょうか。
これを10分見るのであれば、ちょうどよい薄さですが、4分には向いていませんでした。
春風亭小朝のコメント
「関脇の人が横綱相撲をとってしまった感じ」
これは言い得て妙でした。
中川家と似た構成ですが、自力の差が出てしまいましたね。
もちろんぐっさんは器用でおもしろ雰囲気ムンムンです。あくまで漫才の力という意味です。
10.ハリガネロック
今大会準優勝のハリガネロック。
笑いの間隔もよく詰まっていて、準優勝は妥当なものでしょう。
マシンガントークでテンポよく進んでいく漫才は、当時では若者向けという印象でしょうか。
若者からの人気が多かったことが、会場の声援からも伺いしれます。
◯感想
分析をしてみて、思った以上に手間でしたね。
あと、やはり最近のネタに慣れたせいで、あまりネタ自体は楽しめませんでした。
しかし、新しい発見もありましたし、分析のおかげで今までよりこの時代の漫才の面白さが理解できるようになりました。
この大会で一番おもしろかったのは、司会の赤坂氏が
中川家を石川家、ハリガネロックをアメリカンロックと間違えたシーンでしたね。
次回は2002を分析してみます。